犬と猫の避妊・去勢
動物病院で一般的に言われている去勢手術とは男の子の精巣をとること、避妊手術とは女の子の卵巣もしくは卵巣と子宮の両方をとることです。
健康な子に手術をするのはかわいそう、麻酔が怖いなどの意見もあると思います。しかし、元気なうちに手術をしておくことによって、将来的な負担が減らせるとしたらどうでしょうか。可愛いご家族のために、手術するべきかどうか一緒に考えていきましょう。
去勢避妊手術の目的は大きく2つです。
1.発情期のホルモンバランスの乱れからくるストレスの軽減
特に女の子は、発情期にホルモンバランスが大きく乱れ、体調を崩しやすいです。
男の子は性的興奮により、女の子のもとに行けないストレスから攻撃的になったり、女の子を探しに家出をしたりする場合があります。これらはかなりのストレスで、身体的な負担になっていると言われています。
2.年をとった時にかかる病気の予防
肛門の周りにできる腫瘍です。
肛門の周りを取り巻くように腫瘍が発生し、腫瘍が破裂して化膿し、膿や出血が止まらなくなったり、腫瘍が肛門を圧迫しうんちが出なくなってしまう子もいます。 そうなると肛門全体をとる手術が必要になることもあります。
前立腺肥大は人間もよく起こる病気で、人間の主な症状は排尿困難です。 これは、前立腺が膀胱の出口についており、それが尿道を圧迫することから起こるものです。
犬の前立腺肥大では人間と違い、前立腺の上にあるうんちの通り道(結腸・直腸)を圧迫してしまい、排便困難、頑固な下痢が見られることがあります。
精巣の腫瘍には良性の腫瘍と悪性の腫瘍(ガン)があります。
ガンの場合には、リンパ節、肝臓などに転移して命を失ってしまう場合もありますし、良性であっても腫瘍から出るホルモン異常により、脱毛、皮膚炎、貧血、前立腺の異常などが見られるようになります。
また、精巣が陰嚢に入っておらず、おなかの中に隠れている子の場合、精巣腫瘍を起こす可能性が約10倍高まると言われているので、早めの去勢手術をお勧めします。
肛門に近い腸の周りの筋肉が弱くなることで、本来筋肉の中に収まっているべき腸が周りの筋肉から外に出てしまうことです。それによって、排便困難や便秘などの症状が見られ、ひどくなると嘔吐などの症状も見られることがあります。
10歳以上の犬の死亡原因を調べると、およそ半分がガンで亡くなっています。 特に犬の腫瘍の中で 最も多く見られる乳腺腫瘍は、メス犬で高率に発生することが知られています。 避妊していない犬と避妊している犬を比較すると、避妊していない犬では 7倍の確率で発生しており、明らかにホルモン依存性の腫瘍であることがわかっています。
また、避妊の時期による乳腺腫瘍発生率は、初回発情の前に避妊した犬では 0.05%、1回目の発情後に避妊手術した犬では 8%、2回目の発情後に手術をすると25%という報告があります。
このことからも、早期に避妊手術をすることで、乳腺腫瘍が起こる確率を限りなくゼロに近づけることができるとわかります。
子宮蓄膿症は、“子宮にばい菌が感染し、膿がたまる病気”です。 この病気は、避妊していない犬の約25%に発生すると言われており、女性ホルモンの異常によって子宮の免疫力が下がり、ばい菌が入り込みやすくなることによって起こります。
この病気を放っておくと 3日ほどで敗血症になり、全身にばい菌の毒が広がり、腎不全を起こして亡くなってしまうことがあります。 また、子宮に膿がたまりすぎてお腹の中で破裂し、腹膜炎を起こして亡くなってしまうこともあります。 この病気は、避妊手術を行うと 100%防ぐことができます。
子宮腫瘍など
卵巣腫瘍、子宮の腫瘍は犬ではかなり希な病気です。
しかしこれらの腫瘍は悪性であることが多く、ガンにかかってしまった場合には、お腹の中に転移を起こしたり、お腹の中いっぱいに腫瘍が拡がってしまうことがあります。
これもほとんどの場合、避妊手術で防ぐことができます。
逆に、去勢避妊手術の欠点もあります。
それは「太りやすくなる」ことです。手術後は約30%基礎代謝が低下すると言われており、同じ量を食べているといつの間にか丸々してくることもあります。しかし、去勢手術、避妊手術後用のフードも開発されており、しっかり食事管理をしてあげれば、肥満は防げます。
麻酔に関して
人間と同様、100%安全というケースはありません。健康な子に麻酔をかけた時に麻酔事故を起こす確率は犬で約0.05%、猫で約0.11%という報告がイギリスで発表されています(Brodbelt et al.,2008)。
当院では、できるだけそれを0%に近づけるように、術前検査を入念に行い、術前の静脈点滴を流し、前処置としての鎮静薬、鎮痛薬、副交感神経抑制薬などの投与、酸素化を行い、気道を確保したのち安全な吸入麻酔にて手術を開始します。
術中のモニター(心電図、酸素飽和度、二酸化炭素濃度、換気量、血圧、体温など)は複数スタッフで常にチェックし、異常があった場合すぐに対処できるようにしています。
また術後も念のため1泊〜入院していただき、静脈点滴をしっかり流し、疼痛管理や全身状態の異常がないかチェックします。(中には病院が苦手な子もいるので、日帰りになる場合もあります。)
病院に来てから家に帰るまで、どうぶつ達の感じる痛みや不安が少なくなるように配慮しております。